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プロローグ 01

 あたしは、ある日のある時を境にして、突然に、混乱した。……そんな時がやってくるなんて、想像だにしていなかったけど、……いつか、すべてがだめになる予感は、いつだって、あたしの心のどこかにあった。

 誰のせいでもない。
 ただ、来るべき時が来たの。

 なんだろう、あの感じ。小さな種のようなんだけれど、あたし、うまく言えているかな。それっていうのは、さいしょから、あたしの遺伝子配列の中に入りこんでいて、ずっと、ずっと、小さな熱を発しながら、うずうずしていた。

 それが、とうとう発芽する。

 死ぬのだ、と思った。

 少しも怖くなかった。

 むしろ、自分が行くべき正しい道が、やっと見えた気がした。前ではない。後ろへ向かうのだ。安住の地はそこにある。自分が生まれてきた虚無の黒に、ほおずりしたい気分だった。

 なのに、――

 ねえ、ぜんぶ、あなたのせいよ。
 あなたが、あたしを引き止めたんだから。
 あなたが、今のあたしを生み出したんだから。
 あなたは、あたしにとって、父であり、世界であり、永遠である。
 そんなあたし、間違っているかな。
 あたしにとって、あなたは特別なのよ。
 あたしは、あの夜、落ち葉にまみれながらあなたに抱きついていた時の、あの絶対の安心感を、永遠にしたい。この中であったら、あたしは生きていけると思った。

 この人と一つになりたい。

 はっきりと意識した瞬間に、世界の色が変わった。

 誰もいらない。
 あなただけがほしいと思った。

 意味のないものばかりでできたこの世界から、二人で抜け出して、二人でたどり着く先こそが、本当の世界だと思った。

プロローグ 02

 つまり、問題は、あなたのほうは、この世界が意味のないものばかりでできている、とは考えていないことだった。

 ありとあらゆるものがあるけれど、ほしいものが何一つないのが、この世界。――あたしの目に映る世界。でも、あなたは違う。あなたには、ほしいものがある。

 どこを見渡しても人の気配であふれているのに、あたしは誰のことも好きではないし、誰のことも求めていない。――でもそれは贅沢病だとあなたは言う。なぜなら、あなたの幼少時代には、そもそも周りに人がいなかった。人生の最初に与えられたのが完膚なきまでの孤独で、他人を求めるという概念すら知らないところから、あなたは始まっていた。